連合艦隊解散の辞 東郷平八郎司令長官の訓示

はじめに

司馬遼太郎さん原作のNHKドラマ「坂の上の雲」を見ました。小説も読んでいたのですが、途中で止まってしまっていました。再放送を見ました。

スペシャルドラマ「坂の上の雲」9/8(日)から総合テレビで再放送!
スペシャルドラマ『坂の上の雲』9/8(日)から総合テレビで再放送! 9/1(日)には「坂の上の雲」を語る本木雅弘さんのインタビュー番組も放送決定!

名言というか名シーンというか、後世に渡って語り継がれる印象的な場面がたくさんありました。

二〇三高地占領の際に児玉源太郎が発した「そこから旅順港は見えるか」。

バルチック艦隊を発見した日本の連合艦隊が東京の軍令部に向けた電文「敵艦見ユトノ警報ニ接シ、連合艦隊ハ直チニ出動、之ヲ撃滅セントス」。これに海軍参謀の秋山真之が付け加えた一文「本日天気晴朗ナレドモ波高シ」。

なかでも、最終回の終盤にあったシーン、東郷平八郎司令長官による連合艦隊解散式1の訓示が大変良かったので原文を調べ、読み込みました。震えて感動したのでまとめておきます。

訓示

訓練に主点を置かなければならない

原文

此ノ戰役ノ收果ヲ永遠ニ全ウシ、尚益々國運ノ隆昌ヲ扶持センニハ、時ノ平戰ヲ問ハズ、先ヅ外衞ニ立ツベキ海軍ガ常ニ其ノ武力ヲ海洋ニ保全シ、一朝緩急応ズルノ覺悟アルヲ要ス。而シテ武力ナル物ハ艦船兵器等ノミニアラズシテ、之ヲ活用スル無形ノ實力ニアリ、百發百中ノ一砲能ク百發一中ノ敵砲百門ニ對抗シ得ルヲ覺ラバ、我等軍人ハ主トシテ武力ヲ形而上ニ求メザルベカラズ。

現代語訳

この戦争で収めた成果を永遠に生かし、さらに一層国運をさかんにするには平時戦時の別なく、まずもって、外の守りに対し重要な役目を持つ海軍が、常に万全の海上戦力を保持し、ひとたび事あるときは、ただちに、その危急に対応できる構えが必要である。
戦力というものは、ただ艦船兵器等有形のものや数だけで定まるものではなく、これを活用する能力すなわち無形の実力にも左右される。百発百中の砲一門は百発一中、いうなれば百発打っても一発しか当たらないような砲の百門と対抗することができるのであって、この理に気づくなら、われわれ軍人は無形の実力の充実すなわち訓練に主点を置かなければならない。

武人の一生は戦いの連続

原文

惟フニ武人ノ一生ハ連綿不斷ノ戰爭ニシテ、時ノ平戰ニ由リ其ノ責務ニ輕重アルノ理ナシ。事有レバ武力ヲ發揮シ、事無ケレバ之ヲ修養シ、終始一貫其ノ本分ヲ盡サンノミ。過去ノ一年有半彼ノ風濤ト戰ヒ、寒暑ニ抗シ、屡々頑敵ト對シテ生死ノ間ニ出入セシコト固ヨリ容易ノ業ナラザリシモ、觀ズレバ是レ亦長期ノ一大演習ニシテ之ニ參加シ幾多啓發スルヲ得タル武人ノ幸福比スルニ物無シ。豈之ヲ征戰ノ勞苦トスルニ足ランヤ。苟モ武人ニシテ治平ニ偸安センカ、兵備ノ外觀毅然タルモ宛モ沙上ノ樓閣ノ如ク、暴風一過忽チ崩倒スルニ至ラン。洵ニ戒ムベキナリ。

現代語訳

考えるに、武人の一生は戦いの連続であって、その責任は平時であれ戦時であれ、その時々によって軽くなったり、重くなったりするものではない。ことが起これば戦力を発揮するし、事がないときは戦力の涵養につとめ、ひたすらにその本分を尽くすことにある。過去一年半、あの風波と戦い、寒暑に耐え、たびたび強敵と相対して生死の間をさまよったことなどは、容易な業ではなかったけれども、考えてみると、これもまた長期の一大演習であって、これに参加し多くの知識を啓発することができたのは、武人としてこの上もない幸せであったというべきであり、どうして戦争で苦労したなどといえようか。
もし武人が太平に安心して目の前の安楽を追うならば、兵備の外見がいかにりっぱであっても、それはあたかも砂上の楼閣のようなものでしかなく、ひとたび暴風にあえばたちまち崩壊してしまうであろう。まことに心すべきである。

勝って兜の緒を締めよ

原文

神明ハ唯平素ノ鍛錬ニ力メ戰ハヅシテ既ニ勝テル者ニ勝利ノ榮冠ヲ授クルト同時ニ、一勝ニ滿足シ治平ニ安ンズル者ヨリ直ニ之ヲ褫フ。古人曰ク勝ツテ兜ノ緒ヲ締メヨト。

現代語訳

神は平素ひたすら鍛練に努め、戦う前に既に戦勝を約束された者に勝利の栄冠を授けると同時に、一勝に満足し太平に安閑としている者からは、ただちにその栄冠を取り上げてしまうであろう。
昔のことわざにも教えている「勝って、兜の緒を締めよ」と。

おわりに

日本人には、是非全文読んでほしいです。

引用

聯合艦隊解散之辞 - Wikisource

※注釈

  1. 明治38年(1905年)12月21日 ↩︎

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